施工事例訪問
大阪市・The Letter Press


  • 建築カタリスト・小松
    豊かな暮らしの実現のためデザインビルドにこだわる。イクシージャパン代表。

  • 今回の施主・The Letter Pressを運営する有限会社山添、社長の野村さん(右)とデザイナーの大友さん(左)。

  • ウェブデザイナー・みき
    イクシージャパンのサイト制作を担当しています。
    建築はド素人!自宅に大量にある本を減らしたい。
お店のオープンから半年。工事のことを振り返りつつ、今後の展望について伺いました。

イクシージャパンと出会ったきっかけ

みき
本日は、城東区の活版印刷体験ショップ「THE LETTER PRESS」の運営者で、有限会社山添の代表である野村さんと同社デザイナーの大友さんのお二人にお話を伺います。
小松
メビック扇町(※)のコラボ事例紹介『星をつなぐ』の取材ではお店のコンセプト等、店舗紹介が主だったので、今回はもう少し実際のお店を作る建築現場寄りのお話を聞けたらと思います。

※公益財団法人大阪市都市型産業振興センターが運営するクリエイティブ産業振興施設

みき
まずイクシージャパンとの出会いからお聞かせください。
野村さん
はじめはメビック扇町のセミナー会場でしたね。お店についてお話ししたのは2017年5月頃の(株)ルセットの松本さんの食事会だったかな。計画はすでにあって、依頼先を探していた時期だったんです。相談に乗ってもらえるの?と。
みき
どこへこの話を持って行けばいいのかな?というのが最初の相談だったんですね。
大友さん
会社でも事務所のリフォームでお世話になった業者さんはいたんですが、私と野村の中にあるプランを具体化するのに、誰に話を持って行けば良いのかと思っていた時期です。
野村さん
職人さんや工務店に直接頼むとイメージが伝わらないかもしれないし、社内でデザインのイメージは作れるので、空間デザインの大きな会社に持って行く程でもないし、微妙な感じですよね。構想プランのデザイン面で理解してもらえるんじゃないかと思ったんです。色々思っていた時に小松さんと知りあえたので、1回目は軽く相談させてもらいました。
小松
野村さんなら知り合いに設計士や工務店さんもいらっしゃると思い、とりあえず一度お話だけお聞きしますという、いつものスタンスでお会いすることにしました。
大友さん
いっぱい喋っていただいた印象が良かったんでしょうね、フランクだし。変な言い方ですが「頼まなくても良いですよ」という余裕のある方に見えました。
電気工事や大工さんも当方で手配した人で良いとか、こちらで作ったデザインを間違いなく形にする管理業務、つまり現場監督をして欲しいとか、こちらの要望を色々飲んでいただきました(笑)
野村さん
ここが最大ポイントでしょうね。今までのおつきあいも継続できるし、欲しかった現場監督も手に入れることができるし。
みき
いいとこ取りの形でうまく収まりましたね。
野村さん
あとはタイミングですね。どうしようかなと思ってた時に、たまたま松本さんの食事会に小松さんも来られていた。仕事でもよくあるんですよ。必要な時に必要なものが来るんです。私が与えてもらっている感じですね。手がつけられなくてほったらかしていたら、向こうから人や機会がやって来るんです。このタイミングでこの人と知りあうということは、こういうことをした方が良いのかなとか。普段、結構思っている。それも大きいと思います。
大友さん
社長が懇親会とかに出かけた後は、社員が震えてますよ。「仕事取ってくるんちゃうか」「今いっぱいやし、どうする?」って。忙しい時は皆でびくびくしています(笑)
(有)山添の通販サイトの人気商品も販売。お店の一番奥にはハイデルベルク社製自動活版印刷機が鎮座しています。

お店のデザインイメージは自分たちの手で

みき
お店の全体イメージをデザインされたのは?
大友さん
私が作りました。野村の要望を聞いて、汲み取った内容を可視化したデザインを私が作って、それを野村が再度チェックしてという感じでした。
小松
大友さんの作ったイメージに対して、コストや納期の観点からプロとしての素材や工法の提案をさせてもらいました。壁も当初はパネルを貼って塗装か塗り壁と希望されていましたが、コストと手間を抑えるために左官だけで仕上げたり。入口のガラスや木製建具のデザインは、価格を下げるために既製の材料を使うなど、大友さんとかなり調整をしました。今回、塗装屋も入れずに野村さん、大友さんを始め、(有)山添の社員さんみんなで全て塗ってくれたのも大きかったですね。
大友さん
譲れないところと変更しても良いところのやり取りがずっとでしたね。二階に上がる階段など既製品に置き換えたり調整して、予算内に納めることができました。
みき
調整はどれぐらいの期間されていたんですか?
小松
2〜3週間、毎日メールの応酬でした。
大友さんはレスポンスが早く、混乱もなくてやりやすかったです。
大友さん
私も小松さんを信頼して何でも尋ねてましたね。コストも工期もムリを言っているので、協力しなければ!と素早くレスポンスしていました(笑)
極力コストを下げたいというわがまま、工事を采配してくれる現場監督だけ欲しいというわがままを通してリノベーションできたのは、イクシージャパンだから成立したと考えています。
小松
店舗のデザイン面はすべて大友さんに任せようという方針だったんですね。
野村さん
もちろん!私がやるより、頼んだ方がいいものができるから(笑)
みき
お店だけではなく、会社の方向性が普段から共有できているんでしょうね。
小松
思ってたのと違ったな〜というところはありましたか?
野村さん
無いです。むしろ逆ですよ。こうなるんや!という驚きだけ(笑)
大友さん
前に階段があったところをそのまま抜いておくのは意外でした。でもこうした方が採光が良いということで。ああー!という感じ。気になったのは、距離感です。グラフィックデザインの仕事をしているのでファサードのビジュアルを作るのは良いんですけど、普段から現場で数をたくさん見られてる人のようには考えられません。床から階段までの段差と手前のカウンター、トイレ前のステップも、この高さ・距離・幅で良いのか?と感覚でつかめなくて。お客さんが使ってストレスにならないか、そういうジャッジが困りました。
階段があったところ、カウンター、トイレ前のステップ。
みき
いつもは平面だから立体・空間になると勝手が違うと。
大友さん
そうなんです。空間のレイアウトは使い勝手に影響しますから。そういう点で小松さんに色々アドバイスをいただきました。

オープンから半年経って

小松
2018年3月17日完成、20日、オープン。9月20日で半年ですね。開けてみて、いかがでしたか?
野村さん
私は宣伝活動に精を出しています。こういうことができるスペースがあることを、とにかく知ってもらわないと。こういう場所って他にないので、探す人もいないんですよ。
みき
どんな広報活動をされているんですか?
野村さん
Twitter、Instagram、facebook、ホームページですね。新聞の取材やラジオの収録、イベントに出る度にチラシを持って行ったり、通販の発送の際にチラシを入れたり。雑誌にプレスリリースも出したい。まず知ってもらおうと思ってるんです。
大友さん
面白いもんですよね。野村は人を呼ぶぞ!というタイプ。私はこつこつして行きたいタイプ。こういう場所なのでリピーターを作りたいんです。一回体験して楽しかったで終わり、ではなくて、こういう物も作れるかもと想像が膨らんで、そうなった時にここを使おうと思ってもらえるようなサービスを提供できたら良いなと思うんです。
みき
知ってもらうこととリピーターになってもらうこと、両方ともやらないといけないですよね。
小松
印刷会社さんが、工場ではなく店舗を作られた。場所ができたことで変化したことはありますか。
野村さん
場所ができたことは、すごく良いことです。今までは会社と工場だけで、社外の方や一般の人に気軽に来てもらえる場所ではなかったので。
大友さん
ちょっと来てさわってみてくださいって言えるのは呼びやすいですよ。
私の想像ですが、普通に街の中でやってる印刷会社で、こういうことをやっているところはない。オープンしてから印刷業界やメビック扇町とか、外で話してくださいと声がかかるんですよね。意外と他の人たちから見られてると感じます。
様々なサイズの活字が揃った棚。テキンと呼ばれる手動の活版印刷機も使えます。
野村さん
人前で話をするの、苦手なんです(笑)話す中身はあってもその場でまとめられなくて、自分でも何を喋ってたのか分からなくなるので。あらかじめまとめた資料を作っておいて、それを見ながら説明したら、まだマシですね。
小松
いろんなことをやってて、顔も広いし、話すのは得意そうなイメージを持っていたんですが。
野村さん
取材に来たり、外部の人が来たり、という時は、大抵大友さんにいてもらうんです。私は横で聞いてるだけみたいな。
大友さん
私はクライアント業務とは別の仕事が増えたのが大きいです。お客さんのテーマなら、これが良いんじゃないですかと提案できるんですが、自分たち自身の店や商品だとかえってなんでもできて、悩むことも多くなりました。これまでやってきた通販の商品企画はもちろん必要で、その上で店も含めたブランディングなどトータルで考えないといけなくなった。脳の使っていなかったところを使っている感じです。苦しくても成長できるきっかけにはなってると思いますね。
小松
仕事の幅も広がったということでしょうか。
大友さん
もともとB to Cの店をやりたいというコンセプトがあったんです。今まではB to Bですから、やはり思考回路も変えないとダメですし。店のお客さんが増えて、商売として成り立って行くようになれば、商品作りやオペレーションも変えて行かないと。これからは私だけでなく、会社の他のスタッフもそのことを意識してもらえるようになれば良いなと思います。
野村さん
お店ができるからと新しい人を採用して、そのことで今までいた人たちも成長しています。社内的にはそれが大きかったですね。
みき
新しい空間が生まれたことで会社にも大きな変化があったということですね。
野村さん
今までは同じ業界とか、印刷を使う人を相手にしていたんですけど、この店は一般の人、それこそ子どもとか、今まで全く関係なかった人にも向けたサービスをやろうということで、地域のことも考えるし、うちがこのお店をやることで私も見る世界が変わった感じがすごくありますね。今までは自分の会社や業界だけしか見れてなかった。そこで利益を生み出して生き残ることしか考えていなかったのが、地域とか、それこそ大阪とか、日本とかに貢献できる一つの点になったんじゃないかなと思います。
みき
本日は、ありがとうございました。

ショップ情報

店名
The Letter Press
住所
大阪府大阪市城東区成育3丁目5
オープン
2018年3月
Web
theletterpress.shopinfo.jp

オープンまでのスケジュール

小松のまとめ

今回は工期が1か月しかなくコストも厳しい。そしてグラフィックデザイナーさんが全体をデザインをするということ、電気屋さんは施主様のお知り合いである業者さんであることなど、条件としてはかなり難しい工事でした。
コストにおいては、工法や既製品や規格品を使用すること、施主様に自ら購入して施主支給としてもらうこと、DIY(塗装)をしてもらうことにより、何とかクリアしました。納期においては職人さんにムリをお願いしつつ、みんなで調整し協力してもらいました。
今回は難しい工事であるにもかかわらず、施主である山添さんが印刷会社であり、モノづくりを理解されているためとてもやりやすかったです。
コンセプトや目的がハッキリとしているので、メリットデメリット、素材の違いなどの情報をお伝えすれば決断も早く、現場の気持ちや状況に合わせて対応してくれたため、一般の方よりスピードをもって進めることができたのが今回の成功の要因であり発見でした。

「さすがオレ!」なポイントを教えてください

左官・クボさん

左官とは何か?と問われたら、ある意味芸術ではないかと思います。コテと自分の信用たる右腕に込めて、いかにお客様を満足させるに至るか。お客様の心の中に入っていかなければ良い仕事はできないのではないでしょうか。
この現場には古民家再生、古い印刷機械などのギャラリーとして生まれ変わらせるとのこと。土壁などはそのままで、その上から現代の材料で上塗り、相性の悪い土とセメントをいかにひび割れや剥離をなくし施工するか?長年の経験に基づき最善を尽くしコテを操る、いかに壁・床の歪みをゼロに近付けるか、自分の腕にかかっています。
やはり左官は芸術なんだろうと改めて思います。出来上がって、お客様に「ありがとう、キレイになりました」と言われる、その一言がどれだけ嬉しいか。
左官をやめられない最大の理由かもしれません。