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建築カタリストのリノベ・建築よもやま話

なぜ建築はわかりにくいのか?

よく建築はわかりにくいと言われます。その理由を今回は少し考えてみたいと思います。
まず、建築業界そのものがとてもあいまいなのは確かです。

何百万もする工事なのに見積りは2、3枚だけで工事内容も一式と書かれている場合があったり、見積の内容においても説明が足りなかったり、選ばれている部材や商品についても本当にそれがベストなのかがわからないなんてことも多々あります。

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そもそも、何が必要で何がいらないのかさえ、一般の人にはわからないと思います。
残念ながら多くの方は建築と聞くとわからないし、あまり良いイメージを持っていないから「うさんくさい」「コワイ」「ぼったくられる」なんていうふうに思われるのではないでしょうか。

では、なぜそんなにわかりにくいのでしょうか?
まず一つ目の理由として、よく言われるように建築は工業製品ではなく人がつくるフルオーダー製品であるということです。
これにおいては車を買う時と家を買う時と比較してもらえれば分かりやすいかもしれません。

まず、工業製品である車の場合。
新車ならショールームに行けば担当者がついてくれて丁寧に説明をしてくれますし、カタログやスペック表をみて他の車と比べることもできます。
実際に見て触れることでサイズ感や色、内装の質感を確認することもできます。
試乗をすることで乗り心地もわかりますし、ハンドルの取り回しやアクセル、ブレーキの重さや効き、視界の広さなど運転しやすいかどうかも細かくチェックできます。
さらに心配であれば、雑誌やネットなどで専門家の評価を見て参考にすることもできます。

では、家の場合はどうでしょうか?
大手ハウスメーカーや新築マンションであれば大抵モデルルームがあります。
最近ではVRで部屋の中を歩き回れるシステムなんてのもありますね。

実際に足を運ぶと素敵な家具や照明がプロのインテリアコーディネーターによってセレクトされていて、テーブルの上には今すぐにでもパーティーができるようなおしゃれな食器が並んでいて、壁には素敵なアートが飾られている。そんな空間を見て夢を膨らませる方もいらっしゃるかもしれません。

ですが、実際どうでしょう?
あなたが購入しようと思っている家とモデルルームは同じですか?
モデルルームと同じような敷地の広さがありますか?
同じ間取りで同じような素材を使えますか?
作り付けのオーダー家具やデザイナーがセレクトしたカーテンや照明がありますか?
いやな言い方になりますがモデルルームにどれだけの人が関わって総額いくらかかっているかご存知ですか?
何より、そこにある空間は本当にあなたの生活にあってますか?

何もモデルルームがいけないと言っているわけではないんです。
かくいう私も以前は大手マンションデベロッパーのモデルルームを数多くやっていましたので…
モデルルームはざっくりと空間の大きさを把握したり、最新のデザインや商品に触れるという意味ではとてもいいと思います。

ただ、冷静になって考えてみてください。
家は何千万もする商品だからこそ、企業はモデルルームには何百万、何千万もかけて誰が見ても良いと思ってもらえるモノに当然しますよね。

マーケティングをしてターゲットを絞っていかに足を運んでくれたお客様の印象に残り、良いイメージを持ってくれる空間にするか?
プロのデザイナーが必死に考えてホテルのような内装や映画に出てくるようなカッコいい空間にするために良い素材を使い手間も暇もお金もかけて仕上げるわけです。
そりゃいいものができますよね。

家の場合はモデルルームがあったとしても単純にくらべることはできません。
特に戸建てであれば敷地状況、風の通り方、光の入り方、法規制などが違いますし、何よりお客様の価値観や暮らし方は100人いれば100通りあるのですから。

出来上がったモノを選択肢の中から選んで単純に買うことと、無いモノを自らの想いや価値観と向き合いながら一つ一つ選び決断して自らがつくりあげていくフルオーダー製品とでは、お金を払うという行為は同じでも全くもって違うことなのです。
そしてそんな経験をしている方は今の世の中あまり多くない。

オーダーシャツやオーダースーツを頼んだことがある方なら少し理解ができるかもしれませんが、家の場合はその何十倍、何百倍決めなければならないことがあるんですね。
まあ、たいていは自らが選んでいると思っていても実は選ばされていることがほとんどであって、本当に自分で選択していることなんてほとんどないんですけど。
それについてはまた別の機会にお話しするとします。

二つ目の理由として建築業界と一般の方の情報格差があり過ぎることです。
確かに建築には専門知識が必要ですし、知識も技術もとても幅が広くしかも奥が深いものです。
家を建てるということは専門業者と共につくりあげていくものですから、一般の人にもある程度の知識や情報が必要になるわけです。
ですがいざ、家を建てるとなった時に建築のプロと話ができる最低限の知識や情報を一般の方がもっているかというと、残念ながら私の経験上ほとんどの方がそうではありません。

自分がどんな家に住みたいのか?どんな素材が好きで何が自分の生活にあっているのか?どうすると快適に過ごせるのか?ということさえも自分自身で理解できていないのに、決めなければいけないことが多すぎるからみんなわからなくなるのです。

これもひとつ例をあげてみましょう。
たとえば、あなたが今から床材(フローリング)を決めるとします。

では、何を基準に決めていきましょう?あなたの好きな樹種できめますか?部屋のデザインで決めますか?それとも機能面から考えますか?

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今回は素材から考えるとしましょう。
では、無垢材にしますか?突板貼りでもいいですか?それともシート貼りですか?ワンピースでないとダメですか?ユニでもいいですか?明るめでナチュラルな床がいいですか?それとも濃いめで重厚感のある感じですか?
樹種はナラ、タモ、クリ、ウォールナット、メープル、それともパインがいいですか?木目はきついほうがいいですか?節はどのくらいあってもいいですか?幅は90mmがいいですか?75mmでもいいですか?それともモダンな感じにするために120mm以上は必要ですか?表面は塗装ですか?自然塗料ですか、オイル仕上げがいいですか?…などなど

たかだか床の種類を一つ決めるだけでもいやになるぐらいの要素があるんですよね。
そもそも、フローリングの種類ってメーカー問わず、国内、海外も入れれば何万種類とあります。
素材においてもピンからキリまであって価格も2倍や3倍違うなんてあたりまえ。それどころか50倍60倍違うのもあり、範囲が広すぎるから困るんですね。

では、どうすればいいのか?
答えはシンプルで当たり前ですが、お客様もプロもお互いが歩み寄り、自分に今できることを精一杯勉強してその情報を共有したうえで、その時にベストと思える選択をするしかないんです。
全ての商品を理解するなんてことはプロでも到底無理ですし、そもそも一般の方がプロと同じ知識を持つ必要なんてありません。

ですが、最終的に何かを選ばなくてはならないですしお金を出すのも出来上がった空間に住み続けるのもお客様自身であり、著名な建築家やデザイナーにお任せであったとしてもお客様の価値観や暮らし方を完全に理解することは不可能なのです。

だから、お客様がすることは自分がどういう暮らしをしたいのか?どんな雰囲気でどのようなものが好きなのか?こだわるところはデザインなのか?機能なのか?それとも価格なのか?
自分の軸でありコンセプトをみずからが理解しておかなくてはいくら情報があったとしても何を基準に選べば良いかわからず、結局選択や決断をすることができなく迷うことになります。

逆に私たち専門家やプロは知識のない一般の方が理解できる説明と、決断できるだけの情報を提供する義務があります。

どんなモノでも必ずそのカタチや価格における理由があります。
そこに時間軸とお客様の価値観を照らし合わせて何百、何千とあるモノの中からプロとしてベストだと考えられる選択肢を絞って説明しなければなりません。
通常なら3つぐらいがベストですかね。

それにはデザインはもちろん機能性や施工性含め全体のコストを理解し、それぞれにおけるメリット・デメリットを論理的に説明できる力が必要となります。
私たちはお客様が理解し納得するために、その手間を惜しんではいけない。
建築家でプロならば良いモノは当然知っているでしょう。また、現場担当者であれば日常業務が忙しくて一つの一つの素材を調べて理解する時間なんてないかもしれない。

ですがその都度その都度、素材として良いモノが本当に目の前のお客様とって良いモノなのか?他にもっと良いモノや方法がないものだろうか?機能や効率を重視しすぎていないだろうか?長期的な時間軸で考えた時に本当に良いモノなのか?を常に問いかけなければならないのです。

お客様と専門家がそれぞれ悩み考え、選び抜いた過程こそが大切で、その知識や経験がお互いの共有知となり納得感が積み重なって最終的に満足度の高い良い建築となるのです。

三つ目の理由として建築は現場状況が違いすぎて正解がいくつもあるので評価軸や基準が決めにくいこと。
そして人の技術や知識、対応能力に頼らないといけない部分が大きすぎることがあげられます。

特にリノベーションなどの改修の場合、どこまで何をするかによって施工の仕方も金額も納期も全然違ってきます。

例えば木造戸建てのお風呂を入れ替える場合、現状が在来工法のお風呂(ユニットバスではないタイプ)でそれを今回ユニットバスに入れ替えるとします。
よく地場の工務店さんや最近ではホームセンターや家電量販店でも浴室リフォームパック〇〇万円施工期間3日とかありますよね。
解体費用と浴室の価格だけであれば、どこの会社でもそれほど変わらないでしょう。

問題は解体した時何をどこまで手を入れるかです。
木造戸建てで在来工法のお風呂であれば20年以上経っているので大抵の場合蛇口部分やパウダールーム(洗面脱衣場)との取り合いの土台は確実に腐ってると考えて良いでしょう。この時代は断熱材も浴室部分は入っていないことがほとんどです。

部屋内の土台ぐらいならまだ良いですが外部に面している柱がダメな場合もあります。普通の柱なら入れ替えもできますが通し柱(1階から2階まで通っている柱)が腐っていたらかなり面倒な工事になります。腐った柱や土台を入れ替えるにも方法がいくつもあります。
大工さんによってもやり方が違いますしその時の現場状況で刻んでボルトで緊結するのか金物で補強するのか、柱を抱かせて土台と繋いで補強するのか方法は様々です。
それによって金額も数万円〜数十万円かかることもあります。

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少し話はズレますが、リフォームパックなどの場合の値段は当然そんなイレギュラーな時の工事代金は含まれていません。
まして、ユニットバスを組み立てる職人さんは大工さんではなくユニット組立専門業者なので建物の柱や土台がダメであっても、その場では直すことができません。
たとえ直す技術や知識を持っている職人さんであったとしても元請け会社からの仕事はユニットを組み立てる工事のみで契約していますので他の工事をする予算も時間も与えられていません。なので何かしてあげたいと思っても自分が請け負った工事だけをすることになります。
結果として、見て見ぬ振りをすることになってしまいます。

建物に何も問題がなくて全ての工程が完璧に行く状態でのパック価格ですので、何かあれば当然工期通りにはいかないですし、それ以外の工事をしなければならないとなると必然的に追加の金額が必要になります。

話を戻しますが、既存のお風呂を解体し確認時に何か問題があった場合適切に家の診断ができて、お客様の考えを理解し長期的な視点で建物にとってもお客様にとってもベストな判断ができる営業マンや担当者がどれだけいるか?

もちろん、中には素晴らしい工務店やリフォーム会社の方もいます。
ですが、宝くじにあたる確率とまではいいませんがこの業界にそんな人はほとんど皆無に等しいのが現状です。
誰が間違っていて何が正しいという簡単な問題ではなく、それぞれの立場や役割があり、あまりにも細分化されすぎているんですよね。

人の介在が増えれば増えるほど、一つのものを協力して作り上げることは難しくなります。
決定権を持っている人間は現場にいないし、責任の所在もわからない。そのうえコストや時間の制約までのしかかってくる。

でも、お客様は専門的なことは分からないし、そんなことは全く関係ないのに解決策として提示される内容は契約当初とは全然違う金額や納期が出てくる。
だから、そこらじゅうでトラブルが起こっていてクレーム産業と言われてしまうんですよね。

建築はどこか一つの部分をさわるとしても全体が理解できていなければなりません。部分の集積が全体を成しているのであり、全体が理解できていないのに部分だけを変えてしまえばバランスが悪く不都合が起こってくるのは当然のことなのです。

以上が私が考える建築が分かりにくい原因になります。
他にも要因をあげようと思えばいくらでもあると思いますが、私が十数年設計と施工の両方をやってきた経験から大事だと思うことを書いてみました。少しでもこの分かりにくい建築業界の理解の一助になれば幸いです。